Olex2 初心者向けチュートリアル

Olex2 初心者向けチュートリアル

作成:琉球大学研究基盤センター

Ver. 1.2

最終更新日:2020/8/11


このマニュアルについて

このマニュアルは、OlexSys社の構造解析プログラムパッケージOlex2の、学内初心者向けチュートリアルです。チュートリアル作成当時のOlex2のバージョンは1.3です。また、このマニュアルの最新バージョンは、下記のURLのサイトで閲覧できます。

http://www.irc.u-ryukyu.ac.jp/instrument/scd/olex2_anal_general.html

〈質問などお問合せ〉
研究基盤センター 問合せフォーム http://irc1.lab.u-ryukyu.ac.jp/?page_id=51

解析の前に

必要なデータファイル

事前に必要な情報(必須)

解析作業で役に立つもの

解析の流れ

  1. 空間群の判定とデータ変換 XPlain
  2. Olex2の起動
  3. データの読み込み Open
  4. 初期構造モデルの発生 Solve
  5. 原子の割り当て
  6. 構造の精密化 Refine
    1. 非水素原子の精密化
    2. 水素原子の付加 Add H
  7. CIFとレポートの作成
  8. 図の作成
  9. checkcif

空間群の判定とデータ変換

空間群の判定とhklファイル、insファイルへのデータ変換はXPlainを使用する。操作方法は別紙マニュアルを参照。

プログラムの起動

  1. デスクトップのショートカットやスタートメニューのアイコン(図 1)をクリックし、Olex2を開く。

    図 1: Olex2デスクトップアイコン

  1. 主な画面の機能は以下の図 2と表 1を参照。

    図 2: Olex2 メイン画面
表 1: Olex2 メイン画面
タブ 説明
Home 一般的な情報、設定、チュートリアル、ニュースなどの案内。
Work Solve Refine Draw Reportの4つのサブメニューで構成。解析は主にこれらのメニューで行う。
View 構造モデルの表示や対称操作、幾何学的計算などグラフィック操作を行う。
Tools 束縛条件の設定や乱れの構造解析、電子密度マップの生成など詳細な解析操作を行う。
Info 精密化や反射強度の統計データを確認できる。

データの読み込み

  1. StartOpenボタンをクリックし、ファイル選択ダイアログでinsファイル(****.ins)を開く (図 3参照)。

    図 3: insファイルを開く手順

初期構造の探索(Solve)

  1. Work -> Solveメニューの下矢印ボタンを順にクリックする(図 4参照)。

    図 4: Solveの実行
  2. Programのプルダウンメニューより、使用する直接法プログラムを選択する。

    特に指定がなければ、とりあえずSHELXTを選べば無難。もしプルダウンメニューにSHELXTが表れていなければ、正しくインストールされているか確認する。

  3. Solveをクリックして、直接法を実行する。

    <参考> Olex2がサポートしている直接法は以下の通り。

    SHELXT / SHELXD / SHELXS / SIR series / SuperFlip / olex2.solve

  4. SHELXTの実行後、初期構造モデルが表示される。

  5. グラフィックス画面全体に初期構造モデルを表示させたいときは、図 5の方法を参考にする。

図 5: 構造モデルの表示を変更する

構造を拡張する

Solveの後に画面表示される構造モデルは、全体の一部(非対称単位)のみなので、全体構造を表示したいときはViewメニューから以下の操作を実行する。

なお、原子の割り当てや構造の精密化は、必ず非対称単位の表示に戻したうえで行うこと。

  1. Symmetry Generation -> Growing -> Grow -> Grow All

    または

  2. Symmetry Generation -> Packing -> Pack Radiusスライドバーをスライドして構造モデルを拡張する

  3. 元の状態(非対称単位)に戻すときは、Symmetry Generation -> Growing -> Grow -> Assym. Unit (fuse)

原子の割り当て(アサイン)

画面に表示中の構造モデルをマウス操作で動かしながら、予想構造と合致するか確認する。

特に初期構造モデルの原子は間違っている場合が多いため、自分でよく確認しながら修正する。 原子番号の近い元素、特に炭素・窒素・酸素・フッ素などは、分子内の数が多い上に割り当ての間違いがよく起こる。予想構造図や分子模型と見比べながら十分よく確認する。

原子の割り当てを変更する方法は主に二通り。

方法1 右クリックメニューで変更する

方法2 Toolbox workから変更する

  1. 修正したい原子をクリックする。

  2. SolveまたはRefineToolbox workに表示されている原子リストから、修正したい原子をクリックすると、構造モデルの原子が変更される。

  3. リストに変更したい原子が存在しない場合は、リスト右横の...ボタンをクリックすると、周期表が現れるので、修正したい元素を選んでクリックする。

  4. なお未割当の電子密度ピークも同様に原子を割り当てることができる。

構造の精密化1(非水素原子)

等方性温度因子として精密化

  1. Work -> Refineメニューの下矢印をクリックし、詳細メニューを表示する。

  2. Programメニューから使用する精密化メニューを選択する。特に理由がなければ、SHELXLを選択する。もしプルダウンメニューにSHELXLが表れていなければ、正しくインストールされているか確認する。

  3. ACTA命令が緑で指定されているか確認する。異なる場合は、プルダウンメニューからACTAを選択する。

  4. 鉛筆マークをクリックし、最終精密化の結果がLIST 4で行われているか確認する。LIST 6になっている場合は、LIST 4に修正する。

  5. Weightの数値をクリックした後、Rifineボタンをクリックし、精密化を実行する。

  6. Refine Extra Settingをクリックし、精密化の詳細を表示する。

  7. TEMP入力欄にケルビン単位で測定温度を入力する。この値の温度に従い、最終精密後の結合長が計算される。

  8. 精密化の計算回数(Cycle)と表示させる電子密度ピーク数(Peaks)を変更する。通常はCylceは10ないし20、Peaksは30。

  9. Refineボタンをクリックして精密化を実行する。

  10. 精密化の結果が表示される。各パラメータの色が精密化の進行状況を示している。赤 → オレンジ →黄緑 → 緑 の順でcheckcifの基準を満たしているか示している。

  11. 差フーリエ合成により、未割当の電子密度ピークが表示される(茶色の球体)。表示数はマウスのホイールを動かして変えることができる。

  12. Shiftが赤 以外の色になるまで精密化を実行する。Refineの前に毎回Weightの値をクリックし、Weightの精密化も忘れずに行うこと。

  13. 未割当の電子密度ピークが残っている場合は、可能な限りの等方性温度因子の段階で割り当てたうえで、精密化する。入力済みの組成式と構造モデルの原子種・数が一致するときは、図 6右側のToolbox Workの元素ボタンがすべて緑色で表示される。

    図 6: 組成式と構造モデルの比較
  14. Show mapをクリックすると、差フーリエ合成による残余電子密度分布が表示される。図 7の緑色は正の密度分布、赤色は負の密度分布を示す。緑色の分布の状況から、割り当てられていない対イオンや結晶溶媒の位置を推定することができる。

    図 7: 残余電子密度分布の確認方法 (showmap)

非等方性温度因子として精密化

  1. ラグビーボールのアイコンをクリックし、非水素原子を等方性温度因子から非等方性温度因子に変更して再度Refineを実行する。

  2. 非等方性温度因子での精密化でもShiftが赤 以外の色になるまで繰り返し実行する。Refineの前に毎回Weightの値をクリックし、Weightの精密化も忘れずに行うこと。

構造の精密化2(水素原子)

  1. Add Hをチェックする。原子のジオメトリーから判断して、計算的に水素原子が付加される。

  2. 水素が正しく付加されているか確認する。本来付かない箇所に水素が付加されている場合は、水素をマウスで右クリックし、Deleteを押して除去する。その後精密化を行う。

  3. 手動で水素原子を付加したい場合はToolsタブ -> Hydrogen Atomsメニューを開く。水素原子を付加したい原子をマウスでクリックし、当該原子の結合次数と付加したい水素の数に合わせたボタンをクリックする。

  4. これまで同様にShiftが赤 以外の色になるまでRefineを繰り返し実行する。Refineの前に毎回Weightの値をクリックし、Weightの精密化も忘れずに行うこと。

最終的な精密化

精密化の確認(特に重要な項目)

Olex2では精密化の進み具合をメイン画面で簡単に確認することができる。詳細は図 8と表 2を参照

図 8: 精密化の進み具合を確認する

表 2: 精密化の主な指標
指標 基準 説明
R1 10%より小さいこと 最も頻繁に用いられる指標。構造因子の振幅の測定値と計算値の一致度
wR2 25%より小さいこと 重みつきのR値
Shift ±0.02以内であること 精密化の結果が収束しているかを判断する
GooF 1に限りなく近い値。少なくとも0.8から2の間の値 Goodness of fitの略。荷重(Weight)が適切な値であるかを判断する。
GooFが不適切な場合は、R1が小さくても、GOFが1に近くなるように荷重を変更して精密化を実行する必要がある(たとえR1値が大きくなっても)。
Max Peak 電子密度ピークの大きさが、結晶中の元素の中で最も大きな原子番号×±0.075の間 大きな値が残っていないか確認する。
大きな電子密度のピークが残っている場合には、構造や結晶中の溶媒分子の包接について再検討する。
Rint 10%より小さいこと 反射強度測定における成否の指標。

上記の指標以外では、

  1. 結合距離や角度、ねじれ角などから見て分子構造が妥当で、分子間で異常な接近が見られない。

  2. 差フリーエ合成に異常に大きな正のピークや負の谷がない。

  3. 図 9のように、熱振動パラメーターが負のパラメータでない(NPDではない)、長楕円型の熱振動にもなっていない。

図 9: 長楕円型の熱振動とNPDの例

原子ラベルを修正する

原子ラベルを表示する

下記の3通りの方法がある。

(1) Labelsプルダウン

Work -> Refineタブ -> ToolboxメニューのLabelsプルダウンから選択 (図 10参照)。ちなみにDrawタブにもToolbox Workメニューが存在するが、機能は全く同じ。

図 10: 原子ラベルの表示

(2) QuickImagesボタン

Work -> Refineタブ -> ToolboxメニューのQuickImagesボタンをそれぞれ選択 (図 11参照)。

ちなみにGoボタンを押すとそのままスクリーンショットを取得できる。

図 11: QuickImagesメニューの使い方

(3) Labelsボタン(Drawタブ)

Work -> Drawタブ -> Labelsボタンをそれぞれ選択

図 12: Labelsボタン

原子ラベルを修正する

Work -> Refineタブ -> Namingメニューを使用する。手順は下記および図 13を参照。ちなみにDrawタブにもNamingメニューが存在するが、機能は全く同じ。

  1. Typeに変更したい元素を入力。
  2. Automatic Hydrogen Namingをチェック。
  3. Nameをクリック。
  4. あらかじめ決めた順に、1. で指定した元素と同じ原子をクリックする。
  5. 同じ元素全ての原子ラベルを付け直したら、ESCキーを押して終了する。
    1. に戻り、残りの元素も同様にラベルの付け直し作業を行う。
図 13: 原子ラベルの修正方法

図の作成

スクリーンショットの保存

いくつか方法があるが、代表的なものを紹介する。

(1) Drawタブ

Drawタブを押すと、そのままスクリーンショットを取得できる。またDrawタブ右横の下矢印を押すと、画像データの種類、画質、POV-Ray作成など詳細設定が可能(図 14を参照)。

図 14: Drawメニューの詳細

(2) QuickImagesボタン

Work -> Refineタブ -> ToolboxメニューのQuickImagesボタンから、原子ラベルの表示のON/OFFがそれぞれ可能。Goボタンを押すとそのままスクリーンショットを取得できる(図 15参照)。

図 15: QuickImagesボタンの使い方

ORTEP図の作成(ORTEP-3 for Windows)

ORTEP図の作成には、別途Ortep3 for Windowsのインストールが必要。インストール方法及び作図方法は別マニュアルを参照。

CIFとレポートの作成

CIFとは、結晶構造解析の結果をやり取りしやすい形にした電子ファイルのこと。分子構造や結晶構造の確認が目的なら、R1値などが十分低下すればCIFとレポートをとりあえず作成すればOK。しかし論文投稿を目指すならCheck CIFで検査を通過するまでが本当のゴールになる。

ビューワー

Olex2以外で無償で入手可能なビューワーは下記の通り。

  1. Mercury … https://www.ccdc.cam.ac.uk/Solutions/CSDSystem/Pages/Mercury.aspx

  2. CrystalViewer … http://crystalmaker.com/crystalviewer/download/index.html

CIFとReportの作成手順

  1. Reportタブの下矢印ボタンをクリックし、詳細項目を表示する。

  2. 下矢印ボタンをクリックした時に、CIFの記載項目の重複部分が表示される。緑色の記載項目をクリックして選択する。

  3. 測定した結晶の色、形状、サイズを入力する。

  4. 測定温度を入力する。

  5. Definision fileが選択されていることを確認する。選択されていない場合は、プルダウンから測定装置に対応するDefinision fileを選択する(Rigaku Saturn 724+で測定した場合はRigaku Saturn724Plus with AFC10を選択する。

  6. Absorption Correctionでは、吸収補正のタイプとその詳細を選択・入力する。入力項目の詳細は表 3を参照。

表 3: Absorption Correctionの入力項目と主な選択肢の説明
項目 説明 主な選択肢
Abs Type 吸収補正の種類 主に次のどちらか。
empirical … 反射データからの経験的吸収補正
numerical … 結晶外形と面指数に基づく吸収補正
multi-scan … 多重走査法
none … 吸収補正なし
Abs Details 吸収補正の詳細 空欄可
Abs T max 透過率の最大値 CrystalClear.cifの _exptl_absorpt_correction_T_maxの値を探して転記
Abs T min 透過率の最小値 CrystalClear.cifの _exptl_absorpt_correction_T_minの値を探して転記

  1. キラル化合物の場合、図 16および表 4を参考に、Absolute structure determinationのプルダウンメニューより、適切な項目を選択する。

    図 16: Absolute structure determinationの選択
    表 4: (参考)Absolute structure determinationの選択肢の説明
    選択肢 略称 説明
    Anomalous dispersion ad 異常散乱。X線の測定・解析により決定した場合
    Reference molecule rm 絶対配置が既知の内部基準
    Reference molecule + AD rmad 内部基準及び異常散乱
    Synthesis syn X線では決められなかったが合成法に基づく
    Unknown unk 不明
    Not applicable . 該当なし(分子は光学活性ではない、など)
  2. Reportボタンをクリックすると、現在の構造のCIFとReportが出力される。出力後のCIFと精密化後のFCFを用いて、checkcifを実行する(“15. checkcif” を参照)

Reportの読み方

レポートの標準的な構成と重要な項目は表 5の通り。

表 5: Reportの見出しの例
レポートの目次
Table 1 Crystal data and structure refinement 結晶学的情報 (格子定数、R1値、Flack値など)
Table 2 Fractional Atomic Coordinates (×10^4) and Equivalent Isotropic Displacement Parameters 原子座標と等方性温度因子パラメータ(非水素原子のみ)
Table 3 Anisotropic Displacement Parameters (Å2×103) 非等方性温度因子パラメータ(非水素原子のみ)
Table 4 Bond Lengths 結合距離
Table 5 Bond Angles 結合角
Table 6 Torsion Angles 二面角
Table 7 Hydrogen Atom Coordinates (Å×10^4) and Isotropic Displacement Parameters (Å2×103) 水素原子座標と等方性温度因子パラメータ
Table 8 Atomic Occupancy (該当する場合のみ)
不規則構造 (Disorderd structure) を解析した場合は、該当する部分構造の占有率が表示される。
Table 9 Solvent masks information (該当する場合のみ)
PLATON/SQUEEZE を実行した場合は、
除去溶媒の空間体積と電子数、除去溶媒分子の種類と数が記載される。
Experimental 測定装置や解析で使用したプログラムの名称、引用すべき文献が記載される。
Crystal structure determination 結晶学的情報
Refinement model description SHELXLで束縛や制約条件等をかけた時は表示される。

checkcif

checkcifとは

論文投稿の基準と照らし合わせて解析結果を評価するツール。オンライン版とオフライン版(PLATON)がある。

checkcifの結果、CIFの内容が不適切な場合は、表 6のように深刻度に応じたAlertが現れる。 論文投稿する予定がなくても、なるべく問題を解決するよう解析や測定の質を向上させてほしい。

表 6: checkCIFにおけるAlertの種類
Alertの種類 説明
Alert level A  重大なミスあるいは欠陥がある。必ず解決しなくてはいけない。
Alert level B  深刻な問題であり注意深く検討する必要がある。Acta Crystallograhica Cに投稿するなら必ず解決する。
その以外の論文誌ならケースバイケース。
Alert level C  標準よりも外れている部分がある(修正する必要があるかもしれない)。
Alert level G  一般的な注意。参考用のコメントであるが、問題がないか確認しておく。

手順

  1. ReportタブのSource filesメニューのIUCr Checkcif ボタンをクリック。ファイル形式はPDFを選択する(図 17参照)。

    図 17: Checkcif
  2. しばらく待つとcheckcifの結果がPDFファイルとして生成される。時間がかかりすぎる場合はHTMLに選択し直して再度ボタンをクリック。

  3. CheckCIFの例は[@{fig:CheckCIF_example}] Alartが表示された場合、四角囲みの記号(PLAT...)をクリックすると、クリックすると解決のヒントが英語で出る。

    図 18: Checkcifの例

よくあるAlart

R1値が高いなどの測定・解析に由来するエラーの他、必須項目の記載漏れなどの文法エラーもよく起こる。よくある文法エラーの例を示す。

記載漏れ:格子定数決定に使った反射数とθ(°)

CrystalClear + Olex2による測定・解析では以下の文法エラーがよく起こる。論文投稿を目指すのであれば、CIFを直接編集して修正なければならない。頻繁に起こる文法エラーとその対処方法を表 7と図 19に示したので参考にしてほしい。

表 7: CheckCIF Alertの例
ALERT 内容 意味 対処例
PLAT183_ALERT_1_A Missing _cell_measurement_reflns_used Value 格子定数決定に使った
反射数の記載漏れ
CrystalClear.cifの
同項目の値を探して転記
PLAT184_ALERT_1_A Missing _cell_measurement_theta_min Value 格子定数決定に使ったθ(°)
下限値の記載漏れ
同上
PLAT185_ALERT_1_A Missing _cell_measurement_theta_max Value 格子定数決定に使ったθ(°)
下限値の記載漏れ
同上
PLAT185_ALERT_1_A Missing _cell_measurement_theta_max Value 格子定数決定に使ったθ(°)
下限値の記載漏れ
同上
図 19: PLAT183~185の対処方法の例

解析結果の検証(checkcif以外)

  1. 他の分析手法でバルク状態の元素分析(特にCHN組成)は調べられているか?

     分析結果と単結晶X線構造解析の結果はCHNそれぞれ0.3%以内で一致しているか?
     (結晶溶媒の数、カウンターイオンの交換、「分晶」の可能性、バルク試料の純度に注意すること。)
  2. 最初に入力した組成式と一致しているか?

  3. 解析結果の結合長、結合角はそれぞれ一般的な値と比較してどうか?

     レポートの内容を確認。「珍しい」結合長・結合角の場合は、他の評価基準をもう一度点検
  4. Flack Parameter の解釈は?(キラル分子の絶対構造を決定する場合)

     レポートの内容を確認。

距離と角度を調べる

方法1 隣り合う原子同士は右クリックメニュー

調べたい原子を右クリックし、BANGを選択すると、隣同士の原子との結合距離や結合角度を調べることができる。

図 20: BANGの例

方法2 Reportを作成する

前述の「CIFとReportの作成手順」を参照

方法3 遠隔の距離・角度を調べる

  1. 距離を調べたい原子を左クリックで2つ以上選択する。

  2. Viewタブ -> Geometryメニュー -> Distance and Anglesをクリック

  3. グラフィック画面左下(コマンド入力欄)に2原子間の距離または仰角(3原子以上選択の時)が表示される。

図 21: Distance and Anglesの使い方

水素結合を見つける

  1. Viewタブ -> Geometryメニュー -> Analyse Hydrogen bondsをクリック

  2. グラフィック画面に分子内及び分子間の水素結合ネットワークが表示される (図 22参照)。

図 22: H-bondの例

フラック変数(Flack Parameter)の解釈

絶対構造の判定にはフラック変数𝑥とその標準誤差𝜎(𝑥)の両方が必要。フラック変数の解釈は表 8および表 9を参照。

表 8: フラック変数の条件a
条件 説明
𝜎(𝑥) < 0.3 これが最低必須条件。これを満たしていないと。反転構造を判別する力が弱いので絶対構造(あるいは極性軸などの方位)の判定はできない
𝜎(𝑥) < 0.04b かつ |𝑥| < 2𝜎(𝑥) 反転構造を判別する力が十分に強い。結晶は反転双晶ではなく、また絶対構造(あるいは極性軸)も正しい。
𝜎(𝑥) < 0.04 かつ 0.5 ≧ 𝑥 > 3𝜎(𝑥) 反転構造を判別する力が十分に強い。結晶は反転双晶である。

脚注a:出典1の67頁と出典3より引用、一部改変

脚注b:ただし、一方の対掌体のみの化合物と分かっている場合は𝜎(𝑥) < 0.1で十分である

フラック変数はReportのTable. 1の末尾に記載されている。 図 23の例では-0.8±0.7を意味しており、絶対構造を判定する力は弱い。軽元素のみで構成される分子の場合は、銅線源を用いて再測定する必要がある。フラック変数の解釈の例は表 9も参照のこと。

図 23: フラック変数の例
表 9: 有機化合物についての絶対構造の判定例
化学式 X線源 フラック変数 判別力a
1 C16H24O4S Cu Kα 0.02(3)
2 C32H54O6Cl2S2Si Mo Kα 0.0(2)
3 C9H13N3O5 Mo Kα -0.8(7) ×
4 C14H8O3Br3 Mo Kα -0.01(2)

脚注: 〇:判別力が十分強い、△:判別力が十分強くないが、判定は可能、×:判別力が弱い

参考文献・出典

  1. 大場 茂, 植草 秀裕, X線結晶構造解析入門: 強度測定からCIF投稿まで, 2014, 化学同人

  2. 大橋 裕二編著 ; 植草秀裕 ほか著, X線・中性子による構造解析, 2015, 東京化学同人

  3. Flack, H.D. and Bernardinelli, “Reporting and evaluating absolute-structure and absolute-configuration determinations”, J. Appl. Cryst. 2000, 33, 114-1148.

更新履歴

バージョン 更新内容 更新者 更新日
Ver. 0.1 講習会資料として作成・公開 古謝 2019/11/13
Ver. 1.0 「フラック変数(Flack Parameter)の解釈」のパートを書き換え、誤字等の修正、 古謝 2020/7/10
Ver. 1.1 「このマニュアルについて」を一部修正。 古謝 2020/7/14
Ver. 1.2 「最終的な精密化」を一部修正。 古謝 2020/8/11

謝辞

このマニュアルは大学連携研究設備ネットワーク人材育成事業の支援による「X線回折セミナー「単結晶X線構造解析の基礎と応用」(2018年6月19日 大阪大学 産業科学研究所)」の受講内容を基に作成しました。 また、作成に当たり、理学部海洋自然化学科化学系の高良聡先生(単結晶X線構造解析アドバイザー)から助言・指導も頂きました。この場を借りてお礼を申し上げます。