作成:琉球大学研究基盤センター
Ver. 1.4
最終更新日:2021/3/1
このマニュアルは、OlexSys社の構造解析プログラムパッケージOlex2の、学内初心者向けチュートリアルです。チュートリアル作成当時のOlex2のバージョンは1.3です。また、このマニュアルの最新バージョンは、下記のURLのサイトで閲覧できます。
http://www.irc.u-ryukyu.ac.jp/instrument/scd/olex2_anal_general.html
〈公式ドキュメント〉
Olex2 - Documentation https://www.olexsys.org/olex2/docs/
〈質問などお問合せ〉
研究基盤センター 問合せフォーム http://irc1.lab.u-ryukyu.ac.jp/?page_id=51
hklファイル(****.hkl
)
反射強度ファイルのこと。CrystalClearで測定した場合は、あらかじめめ保存ファイル形式をhklファイル(****.hkl
)に変更したうえでIntegrationするか、XPlainなどでf2plus.dat
ファイルをhklファイルに変換する必要がある。
insファイル(****.ins
)
SHELXの入力ファイルの事。結晶学データや計算のパラメータを設定する。なおCrystalClearで測定・データ処理した場合は、その出力ファイル(CrystalClear.cif)をinsファイル(****.ins
)に変換する必要がある。いくつか方法があるが、hklファイル同様XPlain
を実行し変換する方法がおすすめ。
XPlain
Open
Solve
Refine
Add H
空間群の判定とhklファイル、insファイルへのデータ変換はXPlain
を使用する。操作方法は別紙マニュアルを参照。
デスクトップのショートカットやスタートメニューのアイコン(図 1)をクリックし、Olex2
を開く。
主な画面の機能は以下の図 2と表 1を参照。
タブ | 説明 |
---|---|
Home | 一般的な情報、設定、チュートリアル、ニュースなどの案内。 |
Work | Solve Refine Draw Report の4つのサブメニューで構成。解析は主にこれらのメニューで行う。 |
View | 構造モデルの表示や対称操作、幾何学的計算などグラフィック操作を行う。 |
Tools | 束縛条件の設定や乱れの構造解析、電子密度マップの生成など詳細な解析操作を行う。 |
Info | 精密化や反射強度の統計データを確認できる。 |
Start
のOpen
ボタンをクリックし、ファイル選択ダイアログでinsファイル(****.ins
)を開く (図 3参照)。
Work
-> Solve
メニューの下矢印ボタンを順にクリックする(図 4参照)。
Solve
の実行Program
のプルダウンメニューより、使用する直接法プログラムを選択する。
特に指定がなければ、とりあえずSHELXT
を選べば無難。もしプルダウンメニューにSHELXT
が表れていなければ、正しくインストールされているか確認する。
Solve
をクリックして、直接法を実行する。
<参考> Olex2がサポートしている直接法は以下の通り。
SHELXT / SHELXD / SHELXS / SIR series / SuperFlip / olex2.solve
SHELXT
の実行後、初期構造モデルが表示される。
グラフィックス画面全体に初期構造モデルを表示させたいときは、図 5の方法を参考にする。
Solve
の後に画面表示される構造モデルは、全体の一部(非対称単位)のみなので、全体構造を表示したいときはView
メニューから以下の操作を実行する。
なお、原子の割り当てや構造の精密化は、必ず非対称単位の表示に戻したうえで行うこと。
Symmetry Generation
-> Growing
-> Grow
-> Grow All
または
Symmetry Generation
-> Packing
-> Pack Radius
スライドバーをスライドして構造モデルを拡張する
元の状態(非対称単位)に戻すときは、Symmetry Generation
-> Growing
-> Grow
-> Assym. Unit (fuse)
画面に表示中の構造モデルをマウス操作で動かしながら、予想構造と合致するか確認する。
特に初期構造モデルの原子は間違っている場合が多いため、自分でよく確認しながら修正する。 原子番号の近い元素、特に炭素・窒素・酸素・フッ素などは、分子内の数が多い上に割り当ての間違いがよく起こる。予想構造図や分子模型と見比べながら十分よく確認する。
原子の割り当てを変更する方法は主に二通り。
Toolbox work
から変更する修正したい原子をクリックする。
Solve
またはRefine
のToolbox work
に表示されている原子リストから、修正したい原子をクリックすると、構造モデルの原子が変更される。
リストに変更したい原子が存在しない場合は、リスト右横の...
ボタンをクリックすると、周期表が現れるので、修正したい元素を選んでクリックする。
なお未割当の電子密度ピークも同様に原子を割り当てることができる。
Work
-> Refine
メニューの下矢印をクリックし、詳細メニューを表示する。
Program
メニューから使用する精密化メニューを選択する。特に理由がなければ、SHELXL
を選択する。もしプルダウンメニューにSHELXL
が表れていなければ、正しくインストールされているか確認する。
ACTA命令が緑で指定されているか確認する。異なる場合は、プルダウンメニューからACTA
を選択する。
鉛筆マーク(組成式の右横のボタン)をクリックし、最終精密化の結果がLIST 4
で行われているか確認する。LIST 6
になっている場合は、LIST 4
に修正する。
Refine Extra Setting
をクリックし、精密化の詳細を表示する。
TEMP
入力欄にセルシウス温度単位(℃)で測定温度を入力する。この値の温度に従い、最終精密後の結合長が計算される。
精密化の計算回数(Cycle
)と表示させる電子密度ピーク数(Peaks
)を変更する。設定の目安はCylce
は10ないし20。Peaks
は精密化の進捗に合わせて自動で数値が変わる。自分で設定することも可能。
Refine
ボタンをクリックして精密化を実行する。
Tips
コマンド入力欄に
Refine
と入力しEnterキーを押すと、Refine
ボタンを使わずに実行できる(図 7参照)。図 7: コマンド入力欄の使い方
Weight
の数値をクリックした後、Rifine
ボタンをクリックし、再度精密化を実行する。
精密化の結果が表示される。各パラメータの色が精密化の進行状況を示している。赤 ■ → オレンジ ■ →黄緑 ■ → 緑 ■ の順でcheckcifの基準を満たしているか示している。
差フーリエ合成により、未割当の電子密度ピークが表示される(茶色の球体)。表示数はマウスのホイールを動かして変えることができる。
Shift
が赤 ■以外の色になるまで精密化を実行する。Refine
の前に毎回Weight
の値をクリックし、Weight
の精密化も忘れずに行うこと。
未割当の電子密度ピークが残っている場合は、可能な限りの等方性温度因子の段階で割り当てたうえで、精密化する。入力済みの組成式と構造モデルの原子種・数が一致するときは、図 8右側のToolbox Work
の元素ボタンがすべて緑色で表示される。
Show map
をクリックすると、差フーリエ合成による残余電子密度分布が表示される。図 9の緑色は正の密度分布、赤色は負の密度分布を示す。緑色の分布の状況から、割り当てられていない対イオンや結晶溶媒の位置を推定することができる。
ラグビーボールのアイコンをクリックし、非水素原子を等方性温度因子から非等方性温度因子に変更して再度Refine
を実行する。
非等方性温度因子での精密化でもShift
が赤 ■以外の色になるまで繰り返し実行する。Refine
の前に毎回Weight
の値をクリックし、Weight
の精密化も忘れずに行うこと。
Add H
をチェックする。原子のジオメトリーから判断して、計算的に水素原子が付加される。
水素が正しく付加されているか確認する。本来付かない箇所に水素が付加されている場合は、水素をマウスで右クリックし、Delete
を押して除去する。その後精密化を行う。
手動で水素原子を付加したい場合はTools
タブ -> Hydrogen Atoms
メニューを開く。水素原子を付加したい原子をマウスでクリックし、当該原子の結合次数と付加したい水素の数に合わせたボタンをクリックする。
これまで同様にShift
が赤 ■以外の色になるまでRefine
を繰り返し実行する。Refine
の前に毎回Weight
の値をクリックし、Weight
の精密化も忘れずに行うこと。
Olex2では精密化の進み具合をメイン画面で簡単に確認することができる。詳細は図 10と表 2を参照。
指標 | 基準 | 説明 |
---|---|---|
R1 | 10%より小さいこと | 最も頻繁に用いられる指標。構造因子の振幅の測定値と計算値の一致度 |
wR2 | 25%より小さいこと | 重みつきのR値 |
Shift | ±0.02以内であること | 精密化の結果が収束しているかを判断する |
GooF | 1に限りなく近い値。少なくとも0.8から2の間の値 | Goodness of fitの略。荷重(Weight)が適切な値であるかを判断する。 GooFが不適切な場合は、R1が小さくても、GOFが1に近くなるように荷重を変更して精密化を実行する必要がある(たとえR1値が大きくなっても)。 |
Max Peak | 電子密度ピークの大きさが、結晶中の元素の中で最も大きな原子番号×±0.075の間 | 大きな値が残っていないか確認する。 大きな電子密度のピークが残っている場合には、構造や結晶中の溶媒分子の包接について再検討する。 |
Rint | 10%より小さいこと | 反射強度測定における成否の指標。 |
上記の指標以外では、
結合距離や角度、ねじれ角などから見て分子構造が妥当で、分子間で異常な接近が見られない。
差フリーエ合成に異常に大きな正のピークや負の谷がない。
図 11のように、熱振動パラメーターが負のパラメータでない(NPDではない)、長楕円型の熱振動にもなっていない。
精密化後、Flackの値が1に近い場合は、構造を反転させる必要がある。 またこの時グラフィックエリア下部のログにで構造を反転させるよう警告が表示されている。
inv -f
を入力。Refine
を実行。下記の3通りの方法がある。
Labelsプルダウン
Work
-> Refine
タブ -> Toolbox
メニューのLabels
プルダウンから選択 (図 12参照)。ちなみにDraw
タブにもToolbox Work
メニューが存在するが、機能は全く同じ。
QuickImages
ボタンWork
-> Refine
タブ -> Toolbox
メニューのQuickImages
ボタンをそれぞれ選択 (図 13参照)。
ちなみにGo
ボタンを押すとそのままスクリーンショットを取得できる。
QuickImages
メニューの使い方Labels
ボタン(Draw
タブ)Work
-> Draw
タブ -> Labels
ボタンをそれぞれ選択
Labels
ボタンWork
-> Refine
タブ -> Naming
メニューを使用する。手順は下記および図 15を参照。ちなみにDraw
タブにもNaming
メニューが存在するが、機能は全く同じ。
Type
に変更したい元素を入力。Automatic Hydrogen Naming
をチェック。Name
をクリック。ESC
キーを押して終了する。修正したい原子を、番号の若い順に左クリックして指定する。
コマンド入力欄でname <number>
を入力してエンターキー押す。<number>
は修正したい最初の番号のこと。
例えば炭素原子をC1から順に番号を修正したい場合は、炭素原子をクリックし、name 1
と入力してエンターキーを押す。クリックした順に、C1、C2、C3 …と修正される。
いくつか方法があるが、代表的なものを紹介する。
Draw
タブDraw
タブを押すと、そのままスクリーンショットを取得できる。またDraw
タブ右横の下矢印を押すと、画像データの種類、画質、POV-Ray作成など詳細設定が可能(図 16を参照)。
QuickImages
ボタンWork
-> Refine
タブ -> Toolbox
メニューのQuickImages
ボタンから、原子ラベルの表示のON/OFFがそれぞれ可能。Go
ボタンを押すとそのままスクリーンショットを取得できる(図 17参照)。
ORTEP図の作成には、別途Ortep3 for Windowsのインストールが必要。インストール方法及び作図方法は別マニュアルを参照。
CIFとは、結晶構造解析の結果をやり取りしやすい形にした電子ファイルのこと。分子構造や結晶構造の確認が目的なら、R1値などが十分低下すればCIFとレポートをとりあえず作成すればOK。しかし論文投稿を目指すならCheck CIFで検査を通過するまでが本当のゴールになる。
Olex2以外で無償で入手可能なビューワーは下記の通り。
Mercury … https://www.ccdc.cam.ac.uk/Solutions/CSDSystem/Pages/Mercury.aspx
CrystalViewer … http://crystalmaker.com/crystalviewer/download/index.html
Report
タブの下矢印ボタンをクリックし、詳細項目を表示する。
下矢印ボタンをクリックした時に、CIFの記載項目の重複部分が表示される。緑色の記載項目をクリックして選択する。
測定した結晶の色、形状、サイズを入力する。
測定温度(ケルビン温度, K)を入力する。
Definision file
が選択されていることを確認する。選択されていない場合は、プルダウンから測定装置に対応するDefinision fileを選択する(Rigaku Saturn 724+で測定した場合はRigaku Saturn724Plus with AFC10
を選択する。
Absorption Correction
では、吸収補正のタイプとその詳細を選択・入力する。入力項目の詳細は表 3を参照。
項目 | 説明 | 主な選択肢 |
---|---|---|
Abs Type | 吸収補正の種類 | 主に次のどちらか。 empirical … 反射データからの経験的吸収補正 numerical … 結晶外形と面指数に基づく吸収補正 multi-scan … 多重走査法 none … 吸収補正なし |
Abs Details | 吸収補正の詳細 | 空欄可 |
Abs T max | 透過率の最大値 | CrystalClear.cifの _exptl_absorpt_correction_T_maxの値を探して転記 |
Abs T min | 透過率の最小値 | CrystalClear.cifの _exptl_absorpt_correction_T_minの値を探して転記 |
キラル化合物の場合、図 18および表 4を参考に、Absolute structure determination
のプルダウンメニューより、適切な項目を選択する。
選択肢 | 略称 | 説明 |
---|---|---|
Anomalous dispersion | ad | 異常散乱。X線の測定・解析により決定した場合 |
Reference molecule | rm | 絶対配置が既知の内部基準 |
Reference molecule + AD | rmad | 内部基準及び異常散乱 |
Synthesis | syn | X線では決められなかったが合成法に基づく |
Unknown | unk | 不明 |
Not applicable | . | 該当なし(分子は光学活性ではない、など) |
Report
ボタンをクリックすると、現在の構造のCIFとReportが出力される。出力後のCIFと精密化後のFCFを用いて、checkcifを実行する(“15. checkcif” を参照)
レポートの標準的な構成と重要な項目は表 5の通り。
レポートの目次 | |
---|---|
Table 1 Crystal data and structure refinement | 結晶学的情報 (格子定数、R1値、Flack値など) |
Table 2 Fractional Atomic Coordinates (×10^4) and Equivalent Isotropic Displacement Parameters | 原子座標と等方性温度因子パラメータ(非水素原子のみ) |
Table 3 Anisotropic Displacement Parameters (Å2×103) | 非等方性温度因子パラメータ(非水素原子のみ) |
Table 4 Bond Lengths | 結合距離 |
Table 5 Bond Angles | 結合角 |
Table 6 Torsion Angles | 二面角 |
Table 7 Hydrogen Atom Coordinates (Å×10^4) and Isotropic Displacement Parameters (Å2×103) | 水素原子座標と等方性温度因子パラメータ |
Table 8 Atomic Occupancy | (該当する場合のみ) 不規則構造 (Disorderd structure) を解析した場合は、該当する部分構造の占有率が表示される。 |
Table 9 Solvent masks information | (該当する場合のみ) PLATON/SQUEEZE を実行した場合は、 除去溶媒の空間体積と電子数、除去溶媒分子の種類と数が記載される。 |
Experimental | 測定装置や解析で使用したプログラムの名称、引用すべき文献が記載される。 |
Crystal structure determination | 結晶学的情報 |
Refinement model description | SHELXLで束縛や制約条件等をかけた時は表示される。 |
論文投稿の基準と照らし合わせて解析結果を評価するツール。オンライン版とオフライン版(PLATON)がある。
checkcifの結果、CIFの内容が不適切な場合は、表 6のように深刻度に応じたAlertが現れる。 論文投稿する予定がなくても、なるべく問題を解決するよう解析や測定の質を向上させてほしい。
Alertの種類 | 説明 |
---|---|
Alert level A | 重大なミスあるいは欠陥がある。必ず解決しなくてはいけない。 |
Alert level B | 深刻な問題であり注意深く検討する必要がある。Acta Crystallograhica Cに投稿するなら必ず解決する。 その以外の論文誌ならケースバイケース。 |
Alert level C | 標準よりも外れている部分がある(修正する必要があるかもしれない)。 |
Alert level G | 一般的な注意。参考用のコメントであるが、問題がないか確認しておく。 |
Report
タブのSource files
メニューのIUCr Checkcif
ボタンをクリック。ファイル形式はPDFを選択する(図 19参照)。
しばらく待つとcheckcifの結果がPDFファイルとして生成される。時間がかかりすぎる場合はHTMLに選択し直して再度ボタンをクリック。
CheckCIFの例は[@{fig:CheckCIF_example}] Alartが表示された場合、四角囲みの記号(PLAT...
)をクリックすると、クリックすると解決のヒントが英語で出る。
R1値が高いなどの測定・解析に由来するエラーの他、必須項目の記載漏れなどの文法エラーもよく起こる。よくある文法エラーの例を示す。
CrystalClear + Olex2による測定・解析では以下の文法エラーがよく起こる。論文投稿を目指すのであれば、CIFを直接編集して修正なければならない。頻繁に起こる文法エラーとその対処方法を表 7と図 21に示したので参考にしてほしい。
ALERT | 内容 | 意味 | 対処例 |
---|---|---|---|
PLAT183_ALERT_1_A | Missing _cell_measurement_reflns_used Value | 格子定数決定に使った 反射数の記載漏れ |
CrystalClear.cifの 同項目の値を探して転記 |
PLAT184_ALERT_1_A | Missing _cell_measurement_theta_min Value | 格子定数決定に使ったθ(°) 下限値の記載漏れ |
同上 |
PLAT185_ALERT_1_A | Missing _cell_measurement_theta_max Value | 格子定数決定に使ったθ(°) 上限値の記載漏れ |
同上 |
他の分析手法でバルク状態の元素分析(特にCHN組成)は調べられているか?
分析結果と単結晶X線構造解析の結果はCHNそれぞれ0.3%以内で一致しているか? (結晶溶媒の数、カウンターイオンの交換、「分晶」の可能性、バルク試料の純度に注意すること。)
最初に入力した組成式と一致しているか?
解析結果の結合長、結合角はそれぞれ一般的な値と比較してどうか?
レポートの内容を確認。「珍しい」結合長・結合角の場合は、他の評価基準をもう一度点検
Flack Parameter の解釈は?(キラル分子の絶対構造を決定する場合)
レポートの内容を確認。
調べたい原子を右クリックし、BANG
を選択すると、隣同士の原子との結合距離や結合角度を調べることができる。
Report
を作成する前述の「CIFとReportの作成手順」を参照
距離を調べたい原子を左クリックで2つ以上選択する。
View
タブ -> Geometry
メニュー -> Distance and Angles
をクリック
グラフィック画面左下(コマンド入力欄)に2原子間の距離または仰角(3原子以上選択の時)が表示される。
View
タブ -> Geometry
メニュー -> Analyse Hydrogen bonds
をクリック
グラフィック画面に分子内及び分子間の水素結合ネットワークが表示される (図 24参照)。
絶対構造の判定にはフラック変数𝑥とその標準誤差𝜎(𝑥)の両方が必要。フラック変数の解釈は表 8および表 9を参照。
条件 | 説明 |
---|---|
𝜎(𝑥) < 0.3 | これが最低必須条件。これを満たしていないと。反転構造を判別する力が弱いので絶対構造(あるいは極性軸などの方位)の判定はできない |
𝜎(𝑥) < 0.04b かつ |𝑥| < 2𝜎(𝑥) | 反転構造を判別する力が十分に強い。結晶は反転双晶ではなく、また絶対構造(あるいは極性軸)も正しい。 |
𝜎(𝑥) < 0.04 かつ 0.5 ≧ 𝑥 > 3𝜎(𝑥) | 反転構造を判別する力が十分に強い。結晶は反転双晶である。 |
脚注a:出典1の67頁と出典3より引用、一部改変
脚注b:ただし、一方の対掌体のみの化合物と分かっている場合は𝜎(𝑥) < 0.1で十分である
フラック変数はReportのTable. 1の末尾に記載されている。 図 25の例では-0.8±0.7を意味しており、絶対構造を判定する力は弱い。軽元素のみで構成される分子の場合は、銅線源を用いて再測定する必要がある。フラック変数の解釈の例は表 9も参照のこと。
例 | 化学式 | X線源 | フラック変数 | 判別力a |
---|---|---|---|---|
1 | C16H24O4S | Cu Kα | 0.02(3) | 〇 |
2 | C32H54O6Cl2S2Si | Mo Kα | 0.0(2) | △ |
3 | C9H13N3O5 | Mo Kα | -0.8(7) | × |
4 | C14H8O3Br3 | Mo Kα | -0.01(2) | 〇 |
脚注: 〇:判別力が十分強い、△:判別力が十分強くないが、判定は可能、×:判別力が弱い
大場 茂, 植草 秀裕, X線結晶構造解析入門: 強度測定からCIF投稿まで, 2014, 化学同人
大橋 裕二編著 ; 植草秀裕 ほか著, X線・中性子による構造解析, 2015, 東京化学同人
Flack, H.D. and Bernardinelli, “Reporting and evaluating absolute-structure and absolute-configuration determinations”, J. Appl. Cryst. 2000, 33, 114-1148.
バージョン | 更新内容 | 更新者 | 更新日 |
---|---|---|---|
Ver. 0.1 | 講習会資料として作成・公開。 | 古謝 | 2019/11/13 |
Ver. 1.0 | 「フラック変数(Flack Parameter)の解釈」のパートを書き換え、誤字等の修正。 | 古謝 | 2020/7/10 |
Ver. 1.1 | 「このマニュアルについて」を一部修正。 | 古謝 | 2020/7/14 |
Ver. 1.2 | 「最終的な精密化」を一部修正。 | 古謝 | 2020/8/11 |
Ver. 1.3 | 「13. その他精密化について(構造の反転)」について追記、測定温度の入力(「10. 構造の精密化1」、「12. CIFとレポートの作成」)について修正。 | 古謝 | 2020/10/20 |
Ver. 1.4 | 「10.1 構造の精密化1(非水素原子)」などを修正 | 古謝 | 2021/3/1 |
このマニュアルは大学連携研究設備ネットワーク人材育成事業の支援による「X線回折セミナー「単結晶X線構造解析の基礎と応用」(2018年6月19日 大阪大学 産業科学研究所)」の受講内容を基に作成しました。 また、作成に当たり、理学部海洋自然化学科化学系の高良聡先生(単結晶X線構造解析アドバイザー)から助言・指導も頂きました。この場を借りてお礼を申し上げます。